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【時代・筆者に関して】
○書風としては室町時代後期頃とみられます。
○古筆家(こひつけ)の極め札(きわめふだ;鑑定票)に「東坊城殿(ひがしのぼうじょうどの)」とあります。また短冊本紙には「長淳(ながあつ)」と署名があります。室町後期の公家・歌人であった東坊城長淳(ひがしのぼうじょう・ながあつ1506~1548)を指しています。
○東坊城長淳の広く知られる真筆が少数ながら現存しています。筆跡比較により本短冊が長淳の真筆(自筆)と判明します。
《参照画像》に和歌短冊(東京国立博物館所蔵、『日本書蹟大鑑9』[講談社1978年刊]掲載)と本短冊の画像を掲出しております。御確認ください。
○東坊城長淳(ひがしのぼうじょう・ながあつ1506~1548)は室町時代後期の公家・歌人です。文官として活躍し、大学頭(だいがくのかみ)などを歴任し、中納言となり、大蔵卿(おおくらきょう)を務めます。しかし四十三歳の若さで長門国(ながとのくに)・赤間関(あかまがせき)で急死します。前年に筑紫国に赴任しており、京都へ帰る途中でした。
波乱に満ちた長い生涯を送った父・和長(かずなが)が著名ながら、父の学問・文芸を受け継ぎ、漢詩文や書にもすぐれていました。書は後柏原院流とされます。
『日本書蹟大鑑9』の長淳の書の解説には「どうしたことか、彼の遺墨は少ない。むろん、まだほかに多くの筆跡を残しているにはちがいないと思われるが、現在までに確認できたのはこの一枚だけである。・・・目にも止まらぬ早い筆で一気呵成にしたためた筆の美しさは、たて長の字形が、異様といえば、異様であるが、さすが式部大輔・大学頭を歴任した人の筆跡として、ふさわしいものである。」とあります。
○東坊城家は菅原家の流れを汲む漢学にすぐれた家であり、代々、紀伝道(きでんどう;中国の史書・詩文)を家業としました。しかし長淳の父・和長(かずなが1460~1530)の代に、邸宅が火災に遭い、代々受け継がれてきた漢籍(中国の歴史・思想・詩文などの書籍)や有職故実(ゆうそくこじつ;古来の儀礼や規則)の記録類を失います。朝廷の儀礼や学問の重んじられない時代にあって和長は資料の再収集や作成に邁進し、紀伝道の家としての面目を可能な限りで取り戻します。長淳はその教えを受け継ぐ形で成長しました。
【内容について】
○「田霜(たのしも)」という題名で、初冬の沢田に映る月影の風情を詠じています。
「田霜 見し秋の 跡はととへば 鴫のたつ さは田の霜に こほる月かげ 長淳」
(見之秋乃 跡者止止部者 鴫能多徒 佐者田農霜尓 古保留月可希)
大意:彩り豊かだった秋の風情がどこかに残っていないものかと探したが 鴫(しぎ)の立つ沢田にも霜が降りて、映る月影も凍りつく冬の景色だった
※鴫(しぎ);水田などに居る水鳥で、古来、和歌にも詠まれた。この歌では西行(さいぎょう)の著名な歌「心なき 身にもあはれは 知られけり 鴫立つ沢の秋の夕暮れ」(新古今和歌集)を念頭に、鴫立つ沢田にも霜が降りて、冬となってしまった、と応答している。
【材質など】
○紙本墨書(肉筆)。料紙(りょうし)はこの時代、歌会に短冊を使う際に用いる内曇紙(うちぐもりがみ;藍・紫などで染めた文様の入った装飾料紙)です。通常は上に藍・下に紫で染めたものが使われますが、本短冊では珍しく上下とも藍の染紙を用いています。
○裏面には裏打ち紙がほどこされており、裏書きの墨書は見当たりません。本紙の状態としては時代なりの古色があり、墨色もくっきりしており、全体として良好といえます。
○古筆家(こひつけ;桃山時代~江戸時代にかけての公的な書画鑑定の家)の系統とみられる鑑定家の極札(きわめふだ;鑑定票)が一葉付属しています。古筆家の印章「琴山(きんざん)」ながら分家が用いた「琴山」印が押してあります。通常は裏面に押される個人名の入った印章が見当たりません(※イタミにより当初の裏面が失われて新たな裏打ち紙が施されたか、もともと押されなかったかとみられます)。ただ極めの筆跡をみると、特色ある筆致から分家三代の古筆了仲(こひつ・りょうちゅう
1656~1736)の極めと確認できます。
【寸法】タテ 約35.7cm×ヨコ約5.4㎝
※その他注記など・・・
・筆者名は基本的には署名・伝承筆者によっています。自筆・真筆であるか否かについては説明文中でふれています。
・詳細は画像資料その他を御覧ください。また、釈文等は省略・誤読もあろうかと思いますので御参考程度にお考えください。どうぞよろしくお願いします。
・出品取り消しについて・・・基本的には御入札のない場合に限りますが、画像・解説の改訂を行なう際や、他所にての販売機会との兼ね合いで、出品取り消しを行なうこともあります。たいへん失敬ながらどうか御諒承ください。
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